ガイドライン原案としての特区基準をめぐる論点

1.運営協議会の位置づけ
 構造改革特区では、自治体が主体の運営協議会を設立、移送サービスの運行条件などを決めることになっている。これがそのまま、一般向けのガイドラインにも盛り込まれると、移送サービス団体に様々な制約がかかる恐れがある。国土交通省は、1月の段階では、運営協議会はあくまで構造改革特区だけの話であり、一般向けのガイドラインでは、もっと簡単な手続きにしたいと言明していたが、その後、この点についての言及はない。札幌のSTS実証実験の報告書では、地方自治体の積極的関与を謳っており、自治体による移送サービスの監視装置として、運営協議会が残る可能性は否定できない。

2.NPO法人格取得の義務づけ
 構造改革特区では、移送サービスの実施団体はNPO法人に限定されている(社会福祉協議会などを通じて任意団体が行う方法も無いわけではない)。すでに法人格を持つ移送サービス団体は、全体の4割程度。残りの団体が排除されてしまうことも考えられるが、国土交通省は、ガイドライン提示後、NPO法人でない団体を直ちに取り締まることは全く考えないと言明しているが、地方によっては運輸支局や警察が独走する可能性もある。

3.利用者の範囲
 特区基準では、身体障害者に限らず、要介護認定者、知的障害者、精神障害者、内部障害者など単独では一般の公共交通機関を利用できない者を利用者とするとされていて、幅広く認められているが、これでも不十分とする意見もある。

4.福祉車両限定
 特区基準では、使用車両は広い意味での福祉車両に限定される。いわゆるリフト付き車両やスロープ付き車両だけでなく、回転シートなどの装着車も認められるが、何の改造も施していない普通車は認められない。しかし多くの移送サービス団体では普通車も使っており、その方が乗りやすいという利用者も多い。特にマイカーボランティアは、この基準では全く活動ができなくなるので、普通車両も使えるようにすべきではないか。

5.二種免許について
 特区基準では二種免許は原則とし、充分な経験と技能を有する運転手であれば可としている。これは二種免許の事実上の義務づけと考える向きもあり、構造改革特区の中で運輸支局が二種免許をとるスケジュールを示せと言ったケースもあった。しかし結果的には二種免許は許可の条件にはなっておらず、国土交通省は義務づけではないと再三、表明している。

6.料金について
 特区基準では、料金は「タクシー料金の上限運賃のおおむね2分の1以下で、営利に至らない範囲で設定」するとある。構造改革特区では、この「タクシー料金の上限運賃のおおむね2分の1以下」を狭く解釈して、移送サービス団体に縛りをかけようとする運輸支局があった。一般向けのガイドラインが出されても、同様の問題が起きる可能性は否定できない。ただし、国土交通省では、基準は、同じ車両の大きさ(小型、中型、大型)のタクシー料金であると言明しており、この基準なら、ほとんどの移送サービス団体の利用料は問題にならないと思われるが、単に「非営利」のみを基準にすべきという意見もある。
 注:一般的に移送サービスで使用されているキャラバンやハイエースは「大型」、軽自動車は「小型」に該当します。


ガイドラインの今後を考える上での重要事項
1.一般向けのガイドラインは、遅くても今年度末までに発表されることが決定。

2.特区基準が、多少の修正を加えた上でガイドラインとして発表される公算が大きい。

3.構造改革特区では、運輸支局や国土交通省の側に、規制緩和とは逆行する動きがいくつか見られた。
*二種免許をとるスケジュールを示せと運輸支局が言った −後に撤回。
*料金をあらゆるケースで計算し、そのすべてで小型タクシーの上限運賃2分の1以下でないといけないと運輸支局が言った −後に態度変更。
*運営協議会に、移送サービス団体が入ることを国土交通省の役人が拒んだ。 −結局認める。

4.移送・移動サービス地域ネットワーク団体会議では、特区基準は様々な問題はあるものの、一歩前進と受け止め、少なくともこれを後退させないことを第一目標とすることで合意。いくつかの問題点につき、地域ネットワーク団体連名で要望を提出し、改善を求めることで意見が一致した。

5.構造改革特区の事業は、一部地域ではすでに3ヶ月を経過し、中間報告がまとめられるが、他の地域では実施中か、まだ事業の実施に至っていないところもあるため、年末でも報告が出そろうか不明。したがって、すべての特区事業の中間報告が出るのを待たずに、一般向けのガイドラインが出される公算が大きい。

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